まつこの庭

私の庭に咲いている花や庭にやってくる鳥や虫たちのことを記録していこうと思います

花の図書館(2)「紫の花伝書」 花だいこんを伝えた人々

 「まつこの庭」に花だいこんが咲き始めました。私の庭では、もう30数年間絶えることなく、春先になると庭いっぱいに咲かせ続けてきました。この花は、花だいこん、ムラサキハナナ、オオアラセイトウ諸葛菜(ショカツサイ)などたくさんの名前を持つことで知られています。私はこの花を「ムラサキハナナ」と呼んでいます。

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 2回めの花の図書館は、「紫の花伝書」です。サブタイトルにもあるように、中国から日本へ花だいこんを伝えた人々のお話です。

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 この本は、大震災の翌年2012年に出版されました。

 著者の細川 呉港(ほそかわ ごこう)さんは、長く出版社に勤め、定年になってから花だいこんの中国大陸から日本への伝来のルートを探し続け、それを報告書としてまとめたのです。大学1年の春に線路の土手に群生していた紫の花(当時は花だいこんという名前すら知らなかったそうです。)に魅了され、45年間もその植物の名前やルーツを気にし続け、定年を待ってその花のルーツを探す旅に出られたそうです。日本国内はもとより、中国にまで足を延ばす情熱にはただ官服するだけです。

 この情熱を維持するのに、朝日と読売の2つの新聞紙上を賑わせた名前や伝えた人をめぐっての「花だいこん論争」の役割も大きかったと思います。著者の興味関心をおおいに刺激したに違いありません。なにしろ様々な花だいこんの名前が飛び交う中、昭和天皇が花だいこんに牧野富太郎博士がオオアラセイトウという正式名称を付けていることを指摘したというエピソードまであったのですから。

 著者によると、花だいこんには、5つのルートと5人の人生の軌跡が込められていることが分かったそうです。名前も伝えられたルートによって違ったようです。

      ※(  )は花だいこんの別名です。

        ピーチーツァイとペイハイツァイの漢字名は変換できませんでした。

 1.南京ルート(藍塵菜・ランジンツァイ)と陸軍薬剤少将(紫金草・シキンソウ)

 2 上海ルート(ピーチーツァイ) と銀行の支店長(上海花・シャンハイバナ)

 3 北京ルート (紫羅蘭・ズーローラン)と亡命中国人政治家 

 4 満州ルート①(ペイハイツァイ)と満鉄総裁

 5 満州ルート② と 満州開拓団の女教師

 いずれも戦時中中国に渡っていた人たち(ルート3は違いますが)が、戦後日本へ引き上げる際に持ち帰ったようです。焼野原になった日本の街を花でいっぱいにしたいという思いもあって、持ち帰った種をあちこちに蒔いたり、他人に譲ったりしたようです。その際に現地で呼ばれていた名前が呼びづらいので、自分で名前を付けた人もあるようです。

 中国での名前がたくさんあるのは、中国は広い上に識字率が低く、そのため地方によってさまざまな呼び名が付いたようです。中国では「諸葛菜(ショカツサイ)」と呼ばれることが多いですが、標準名はペイハイツァイとされているそうです。

 「まつこの庭」の花だいこんは、ルート1のようです。ルートの1の軍人さんは、石岡の薬局の人で、中国の紫金山で見た花だいこんに心惹かれ、紫金草の名前を付けて日本に持ち帰り、花ダイコンを広めました。その人の息子さん夫婦は新聞の投書欄を通して日本全国に種を配ったり、日中国交回復前に中国に花ダイコンの種を贈り里帰りさせたり、1995年のつくば万博の際には、花だいこんをピースフラワーとして世界中の人に配る運動をしたりしたそうです。私の庭の花だいこんは、おそらくその万博の際に貰った種だと思います。職場の同僚から頂いたものですが、どういう言われがあったか教えてもらったかどうかも忘れていますが、我が家の庭で30数年咲き続けていることを考えるとぴったり合います。今さらながらに、花だいこんのルーツに思いを馳せています。

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 花だいこんはアブラナ科の植物で、黄色の花を咲かせるアブラナの仲間です。中国原産で、中国では諸葛菜(中国の軍師、諸葛孔明が兵糧にしたという逸話がある。)と呼ばれることが多く、日本名はオオアラセイトウです。ムラサキハナナという名前は、種苗会社が花だいこんの種(ルート4で伝わった種)を売り出すときに付けた商品名だそうです。私には、オオアラセイトウという名前よりもムラサキハナナという名前の方が、この花にはぴったりのような気がします。ちなみに、アラセイトウというのは、ヨーロッパ原産のストックの和名です。

 花だいこんという一つの植物をめぐって、こんなにもたくさんの人々を繋ぎ、人々の人生模様が描かれるという花の持つ力、魅力に驚かされます。この本の中に登場するたくさんの人だけでなく、著者の細川さん自身が何より花だいこんに魅了されていたことが分かります。何より私がこの本を読むことによって、ムラサキハナナがますます好きになりました。