まつこの庭

私の庭に咲いている花や庭にやってくる鳥や虫たちのことを記録していこうと思います

花の図書館(4) 夢幻花

 花の図書館4回目は、東野圭吾推理小説「夢幻花」(むげんばな)です。

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 表紙絵に鮮やかなアサガオが描かれていることからも分かるように、この小説に登場するのはアサガオです。しかも黄色のアサガオです。

 自然界ではバラに青い花がないように、アサガオには黄色の花がありません。正確に言うと、江戸時代には押し花や図譜に菜の花のように鮮やかなアサガオが記されていることから存在していたと考えられています。しかし、黄色のアサガオは何らかの理由で絶滅したと言われています。理由の一つとして、明治維新第二次世界大戦のどさくさが挙げられています。現存する黄色のアサガオは淡い黄色で、白に近いような色です。先日、くらしの植物苑で見てきました。こんな色です。

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 絶滅した黄色のアサガオの花は正に幻の花と言えます。アサガオマニアにとっては、菜の花のような黄色のアサガオの復活は夢であろうと思われます。それで黄色のアサガオのことを夢幻花としたのかと思いました。青いバラは遺伝子組み換えによって誕生しました。私は最初この物語は、黄色のアサガオを復活させたというより遺伝子組み換えのノウハウをめぐってさまざまな事件が起こり、それを解決していくのかと単純に思っていましたが、想像をはるかに超える展開で驚きました。

 古いアサガオらしき種を蒔いて育てていた老人が殺され、アサガオの鉢が持ち去られます。その老人の孫娘が男友達とその謎の解明に乗り出します。他にも別の思いでこの事件に興味を持ち、事件を追う人が何人かいて、最後は1本の糸に繋がっていきます。

 黄色のアサガオの絶滅の理由が最後に明らかになりますが(この理由はもちろん東野圭吾のフィクションですが)、黄色いアサガオだけが持つ幻覚作用にあったというのです。江戸時代に突然暴れたり、人を傷つけたりする奇妙な事件が頻発し、その原因を探ったところ、黄色のアサガオの種を食べた事で起こることが分かり、幕府はこの種が市場に出回ることを禁じ、一方ではこの幻覚作用を麻酔や自白剤として利用できないか医者に研究させたというのです。それが明治、大正、昭和と種が市場に出ないよう取り締まる警察とその子孫たち、研究に携わり、種の保存を任された医者とその子孫たちが三代に亘ってそれぞれの宿命を背負い黄色いアサガオに関わり、複雑に絡み合いながら物語が展開していったのです。最後まで読んで初めて謎が解け、事件を追っていた人たちがその子孫だったということが分かります。

 東野圭吾の手にかかるとフィクションであるはずなのに、黄色のアサガオが本当に幻覚作用を持っているような真実味を帯びてくるので不思議です。元々アサガオは幻覚作用などなくお腹の薬として日本に入ってきたそうです。種を食べても不思議ではありません。種を幻覚剤として使用するという物語の設定に無理はありません。

 東野圭吾の言う夢幻花とは、幻覚作用を持つ植物の事で、追い求めると身を亡ぼすことにつながるものだと言います。

 

 この本は2013年に刊行されましたがその時はまだ鮮やかな黄色のアサガオはありませんでした。2014年に本当に鮮やかな黄色のアサガオが黄色のキンギョソウを使って遺伝子組み換えによって誕生したという発表があったそうです。黄色のアサガオはまだ市場には出ていませんが・・・・。