花にかかわる物語、小説、エッセイ、ドキュメントなど私の心に残った本を「花の図書館」として、これまで6回紹介してきました。
(1) 雑草のくらし 甲斐 伸枝 (絵本)
(2) 紫の花伝書ー花だいこんを伝えた人々ー 細川 呉港(ドキュメント)
(3) 先生のお庭番 朝井 まかて(時代小説)
(4) 夢幻花 東野 圭吾(推理小説)
(5) そらみみ植物園 西島 清順(エッセイ)
(6) 植物図鑑 有川 浩 (恋愛小説 & 野草料理レシピ)
しばらく中断していましたが、今回ぜひ紹介したい本に出会いました。
朝井 まかてさんの「ボタニカ」です。ボタニカは植物という意味です。植物学者として有名な牧野富太郎の生涯をえがいた小説です。
牧野富太郎については、私のブログで何回も登場したことがありますが、私の知っている牧野富太郎は、
1862年、4月24日に高知の豪商の家に生まれ、富太郎の誕生日に因んで4月24日が植物学の日に制定されていること、
小学校を中退後、独学で植物学の研究に打ち込み、94年の生涯において、植物の新種・変種約2500種を発見、命名、分類し、日本植物学の基礎を作ったこと、
学歴がなかったため、功績が認められず、長い間東大の助手に甘んじ、50歳の時にやっと東大講師になり、理学博士の学位を授けられたのが65歳の時で、死後文化勲章を授与されたとこと、
ぐらいで、名前は知っていても、偉大な功績の陰にあったであろう苦労については全く知りませんでした。豪商の家に生まれたのにどうして小学校中退なの?どうして学歴がないの?という疑問はずっとあったのですが、それについて触れてある資料に出会うことはありませんでした。
「ボタニカ」を読んで納得できました。富太郎は幕末に生まれたので、まだその頃は小学校はありませんでした。豪商の家に生まれたので、武士の通う藩校で幼い時から学ぶ機会を得ることができ、学制がしかれたころには14歳(かぞえ齢)になっていたのですが、国学、漢学、洋学、英学まで学んでいたので、当時小学校で教えられていたことはすでに知っていることばかりで、退屈で仕方なく、時間の無駄と考えたようで、15歳の時に小学校を中退します。幼い時から花と会話し、植物について何でも知りたいという思い、「学びたいから学ぶ。知りたいから知ろうとする。」という思いを15歳の時から死ぬまで貫き通したとも言えると思います。学ぶ場と学ぶ時間を全く自由にすること(独学)で、自分勝手な人間とみなされ、学歴はなくなり、東大の中で地位を得ることもできなくなるのは当然のことです。学歴も名誉も全く意に介さず、それからは植物学一筋に邁進します。豪商と言われた実家の財産を食いつぶすほど研究のための本や資料を買い、植物学の本を自費出版し、挙句の果てに借金に借金を重ね、夜逃げまでします。
富太郎の植物学ファーストの生活を支える祖母ナミ、最初の妻なお、二人目の妻すえの苦労は想像を絶します。昔の女の人はこんなにも耐え、尽くすことができるのが当たり前だったのでしょうか? 富太郎の並外れた周囲の人に対するふるまいや金銭感覚の欠如などは、植物学者としての名声とは裏腹に本当に酷いものです。世界的に細菌学者として有名だった野口英世は、実は女の人とお金に汚かったという野口英世の生涯をえがいた渡辺淳一の「遠き落日」と共通点を感じます。表側の名声ばかり取り上げられて、裏側の一人の人間としてはどうだったのかということはあまり取り上げられることはないように思います。表の顔と裏の顔があるから人間はおもしろいのかもしれませんね。「ボタニカ」は植物が好きな私にとっては植物についての新しい知識を得るとともに、牧野富太郎の別な面を知ることができ興味深い本でした。
私が本屋さんで「ボタニカ」に出会ったのは5月の連休の頃でした。来春の朝ドラが、牧野富太郎の生涯をえがいた「らんまん」に決まったことを知ってからでした。「ボタニカ」を見かけた瞬間、「あっ、これが朝ドラの原作なんだ。」と思ってしまいました。この紹介文を書こうとした時まで、勝手にそう思い込んでいました。改めて調べて、びっくり、原作はないとのこと、NHKオリジナルで長田育恵さん脚本とのことです。「ボタニカ」が出たのは今年の1月だったようです。脚本に間に合うはずがないですよね。
「らんまん」の中の富太郎やナミ、なお、すえはどのようにえがかれるのか、「ボタニカ」の中の富太郎やナミ、なお、すえとはどのように違うのか、来春の朝ドラ「らんまん」がとても楽しみです。