桜の花だよりが届く季節になりました。つい先日14日に東京で観測史上最速の開花宣言がなされたばかりです。
花の図書館の8回目は、「桜の科学」(勝木俊雄 著)です。
100年ぶりに日本の桜の新種が発見されたのは2018年です。日本には桜の原種として、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、エドヒガンザクラ、チョウジザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、ミヤマザクラの9種(カンヒザクラを含めて10種とする説もあります。)が知られていました。10種目として発見されたのがクマノザクラで、
その発見者がこの本の著者 勝木俊雄さんです。
この本は、第1章 サクラの不思議
第2章 染井吉野の真実
第3章 桜と日本文化 の3章からなり、
50のトピックスを取り上げ、説明しています。トピックスの例は、「桜切る馬鹿?」「新たな発見 クマノザクラ」「染井吉野はひとつのクローン」「開花日の予想」「温暖化で開花は早まる?」「奈良時代のお花見は梅」などという具合です。
桜の本というと、多くは桜の花の名所などのガイドブック的なものが多いですが、生物学的な桜についての本は少ないように思います。あまり専門的になっても素人には読みこなせないのですが、この本は桜についての「それってどうなの?」と思わせることについて書かれているので、とても興味深く読むことができます。
私が一番興味を引かれたのは、第2章、染井吉野の真実で取り上げられている「開花日の予想」と「温暖化で開花は早まる?」です。
開花予想が行われ始めた1950年代、染井吉野の冬芽の重さを実測することで、成長の度合いをはかり、開花日を推定していたそうです。「暖かくなって、冬芽が生長してきて、やがて咲く」というわけです。
その後、開花を推定する計算式の精度が高くなったことにより、1996年から基本的に気温などの気象データから開花日を推定する方法に切り替わったそうです。冬のある時期に休眠から目覚め、その後は気温の上昇に従って、冬芽が生長し、積算温度が一定の値に達すると開花すると考え方です。
よく天気予報士がTVの天気コーナーなどで開花予想の時に使っている「600℃の法則」です。600℃の法則というのは、2月1日から毎日の最高気温を積算し、600℃に達した時が開花予想日とする方法です。400℃の法則というのもあって、それは1日の平均気温を積算して400℃に達した時が開花予想日とする方法です。
著者の勝木さんは、この方法に懐疑的なようで、600℃の法則という言葉を使っていません。この方法ではいつ休眠から目覚めるのか、開花する積算温度をどのように見積もるかを過去の観測データから推定しているわけですが、観測地点や観測年、低温刺激の不十分さなどから誤差が生じるというのです。現在の開花予想の精度は上がっているけれど、予測はあくまで予測だと述べています。
私などは単純に南の地方が暖かいから桜が咲くのが早いと思っていましたが、冬が暖かいと低温刺激が不十分で休眠解除が遅くなり、逆に開花が遅くなるそうなのです。同じ九州でも開花が早いのは福岡で、遅いのが鹿児島、今年などは開花のトップが九州を抑え東京でした。この低温刺激という説明で、東京が九州より開花が早いという理由が納得出来ました。
「温暖化で開花は早まる?」の答えは、やはりこの低温刺激が関わっているようです。90年前に比べると年の平均気温が2,5℃上昇し、開花は10日ほど早くなっているそうです。100年後には4,5℃上昇する予測が発表され、桜の開花がさらに早まるのではないかと懸念されているようですが、そう大きくは変化しないとみられているそうです。東京では冬が暖かくなったので冬の低温刺激が不十分で、これ以上は開花は早くならないそうです。一方十分な低温刺激のある北海道や東北地方は開花が早まりそうです。しかも札幌が北限と言われる染井吉野の北限が広がる可能性があるそうです。逆に四国、九州は開花が遅くなるだけでなく、開花できなくなる、生育そのものができなくなるという懸念があるそうです。
桜の開花には低温刺激が大きくかかわっていることが分かりました。今の状態なら温暖化が進んでもそれほど桜の開花は早くはならないそうですが、もっともっと温暖化が進むとやがては桜が開花しない時代、桜が育たたない時代が来るというのには驚きです。桜が消えてしまうのは残念です。何としても守りたいですね。
クマノザクラは発見から5年、通販の園芸雑誌にはもう苗木が登場しています。かなり高額です。クマノザクラは3月の中旬より開花を始め、下旬には満開となり、ヤマザクラより少し大きく、ヤマザクラより色合いがピンクがかり、日本人好みだそうです。熊野では新しい観光の目玉として期待されているそうです。手に入れるのは無理としても、花は見てみたいですね。